BR47‐袖擦り合った人々-石炭泥棒

国鉄(インチキ)車両図鑑

「待てえっ! 止まれ、止まらんと撃つぞ!」
「畜生、あのガキ共が、今日と言う今日はただじゃ置かんぞ!」

1917年、エクトワールノワイエの軍用操車場。深夜の豪雨を突いて二人のフランス兵の叫び声と呼子が響く。

10月に入ってから石炭泥棒が現れるようになって警戒を強めていた矢先だった。捕らえた犯人はベルギー人の二人の少女だった。近くにあるエクトワールの森に何時頃からかベルギー人難民のキャンプが出来て、二人の姉妹もそこからやって来るのだろう。

列車を動かす石炭は官給の統制品であり、毎日使用量と残数を輸送隊司令部へ報告しなければならない。10月以来帳尻が合わない日が続き、輸送隊の兵士たちは憔悴していた。


「さあ捕まえたぞガキ共め、どうしてくれようか」
「こんな連中は裁判に掛けるだけ無駄だ、いっそここで…」

「お前たち待て。窃盗事件なら私の担当だ。勝手な真似は許さん、二人をこちらへ引き渡し給え」

そう言って兵士たちを押し留めたのは一人の憲兵だった。彼は傷痍軍人で、1915年に負傷して右手が無かった。

「承知しました憲兵殿」

兵士達が持ち場へ立ち去ると、憲兵は怯えて震えている少女たちに優しく微笑み、彼女たちを詰所に連れて行った。

「君たちはワロンか? フランス語判るか?」
「ウイ」

「さあ火にあたりなさい。寒かっただろう。お腹は空いてないか?」
「ノン」
「おじさんはね、昔フルーレの近くに住んでいたんだよ。フルーレ、判る?」
「ウイ」
「戦争が始まって街は住めなくなった。おじさんが出征している間に家族の居場所は分からなくなってしまったんだ。どこかの難民キャンプで生きていると信じている。一日も早く再会したい」


「…」
「君たちの境遇を見ていると、他人事とはどうしても思えんのだよ。戦争なんか早く終わるが良い。だがその為には我々が勝利しなければいけない。勝利の為には輸送が必要だ、輸送の為には石炭がどうしても必要なんだよ。それを横取りするのは良くない事だ。盗んだ石炭を焚いたら家族に寒い思いをさせなくて済むだろうが、その石炭1キロの分だけ、平和は遠のくんだよ。多くの人の苦しみが長引く事になるんだよ」

彼女たちは泣き始めた。憲兵は彼女たちに慈悲を掛ける気持ちで一杯だった。

「分ったかい? 分ったなら今回だけは赦してあげるから、もうこんな事はしないと約束しておくれ。さあ、分かったね?」


一人の少女が泣きじゃくりながら首を縦に振る。その時もう一人の少女が憲兵の後ろに回り、その場にあった石を憲兵の後頭部に振り下ろした。憲兵は昏倒し、その場に倒れ伏した。

「さあレア! 逃げよう。袋をしっかり持って! 何さあのバカ共、加害者のくせして被害者ぶりやがって、あたしああ言うのが一番腹立つんだ!」

言い捨てて二人の幼い姉妹は操車場の闇に消えた。

本稿了、2026・3・16

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