2026-02

文芸の夏

限界斜面

文芸の夏ー15恐ろしい断崖を辛うじて走っている林道。道の上部で大崩落が起きたらしく、道は途中で完全に土砂に埋まっていた。いや埋まっている等と言う生易しいものでは無く、傾斜30度位の平滑な砂利の斜面と化していて、斜面はそのまま谷底まで続いてい...
文芸の夏

激情と亡失

文芸の夏ー14時雨の墓地の石畳、南天樹の下で和田先輩がうつ伏せに倒れていたので、見苦しくないように手近にあった縄でスカートの裾を縛る。そして枕を頭にあてがうと、私は一仕事した気分になってその場を立ち去る。秋晴れの空。見覚えの無い農家の庭で、...
文芸の夏

芸妓遭難

文芸の夏ー13山間の温泉街だった。渓流に掛かる赤い太鼓橋のたもとで、頬被りをし懐に匕首を呑んだ男が、先ほどから橋の向こうを覗っていた。どうやらあれが簪強盗だと判ってはいたが、黙って様子を見る事にした。やがて橋の向こうから芸者が一人歩いて来た...
文芸の夏

極北の不良

文芸の夏ー12「ミカミ君」と言えば我が中学校始まって以来、と言うより町の開闢以来最悪の不良であると言う事を先輩達から縷々聞かされて来た為、一年坊の私は大変に怖れていた。ミカミ君の「ミ」の字を思い浮かべるだけで心臓の辺りが痛くなる程、彼の存在...
文芸の夏

巨大病院

文芸の夏ー11それは例えようも無く大きな病院だった。上から見るとU字型をしているメインビルディングは端から端まで1㌔は裕にあり、そこで一体何千人の職員が働いているのか数える気にもならなかった。その大きな病院で「メッセンジャーボーイ」として働...
文芸の夏

滑る

文芸の夏ー10日本庭園の中に赤い毛氈が張られた高いひな壇があった。靴を脱いで壇に一歩上がると、何だか左のかかとが涼しいので見た所、靴下に大穴が開いていた。驚いて右足を見るとこちらも穴が開き、親指と人差指(足の指で人は指さないにしても)が見事...
文芸の夏

改造

文芸の夏ー9見間違えようのない大学病院の遺体処置室。処置台の上に縛り付けられているのは私だった。状況が判っていると言う事は生きているのだろう。どうやらこれから私に対する医療関係者の復讐が始まるらしい。一人の医師が「これ以上医療に対する中傷や...
文芸の夏

課長の幽霊を見に行く

文芸の夏ー8モノレールの駅に課長の幽霊が出ると言うので皆で行ってみる事にした。確かにホームでボンヤリしている人物は、見覚えのある課長だった。買い物かごからフランスパンをはみ出させた女性が課長の体を通り抜けて行ったので、やはり幽霊なのだろう。...
文芸の夏

夏の雨は馬が降らあ

文芸の夏ー7山中に送電線を渡す鉄塔を建てる工事。私はその工事を請け負う現場監督だった。私が束ねる男達(若干女子供も)はそれぞれペットボトル一杯のミネラルウォーターを持ち、工具、道具の類を手にする者は誰もいないばかりか、作業服を着ている者すら...
文芸の夏

運動会

文芸の夏ー6床屋で頭をやってもらっていたら、急に今日は友人の子供が通う学校の運動会の日だった事を思い出した。友人の子供は何か「競争」の選手に選ばれたらしく、つい昨夜、その事を彼から嬉しそうに聞いたばかりで、それを今まで忘れていたのだ。さほど...