文芸の夏

文芸の夏

滑る

文芸の夏ー10日本庭園の中に赤い毛氈が張られた高いひな壇があった。靴を脱いで壇に一歩上がると、何だか左のかかとが涼しいので見た所、靴下に大穴が開いていた。驚いて右足を見るとこちらも穴が開き、親指と人差指(足の指で人は指さないにしても)が見事...
文芸の夏

改造

文芸の夏ー9見間違えようのない大学病院の遺体処置室。処置台の上に縛り付けられているのは私だった。状況が判っていると言う事は生きているのだろう。どうやらこれから私に対する医療関係者の復讐が始まるらしい。一人の医師が「これ以上医療に対する中傷や...
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課長の幽霊を見に行く

文芸の夏ー8モノレールの駅に課長の幽霊が出ると言うので皆で行ってみる事にした。確かにホームでボンヤリしている人物は、見覚えのある課長だった。買い物かごからフランスパンをはみ出させた女性が課長の体を通り抜けて行ったので、やはり幽霊なのだろう。...
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夏の雨は馬が降らあ

文芸の夏ー7山中に送電線を渡す鉄塔を建てる工事。私はその工事を請け負う現場監督だった。私が束ねる男達(若干女子供も)はそれぞれペットボトル一杯のミネラルウォーターを持ち、工具、道具の類を手にする者は誰もいないばかりか、作業服を着ている者すら...
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運動会

文芸の夏ー6床屋で頭をやってもらっていたら、急に今日は友人の子供が通う学校の運動会の日だった事を思い出した。友人の子供は何か「競争」の選手に選ばれたらしく、つい昨夜、その事を彼から嬉しそうに聞いたばかりで、それを今まで忘れていたのだ。さほど...
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リンカーン

文芸の夏ー5行田のスーパー裏の路地。路地に座り込んだ私はアルコールランプに火を点けると、すかさず阿部君が空き缶をその火に掛ける。和文タイプの活字を缶にくべると瞬く間に解けて鉛になる。それを木のスプーンで少しすくって冷まし、頃合を計って掌に載...
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バスの湯

文芸の夏ー4雪が舞っている山中の、ひと気の無いバス専用駐車場に温泉が湧いていた。そそくさと裸になって腰にタオルを巻いた私は、震えながら駐車場の隅にある巨大な浴槽に小走りで向かった。浴槽はコンクリート打ちっ放しで風情も何もないが、何より盛大に...
文芸の夏

コーヒー前の仕事

文芸の夏ー3高そうな…ではなくて高級そうなレストランで食事を終えると、1人のボーイがテーブルに水の入った銀色の器を置き、恭しく一礼して下がった。入れ替わりに別のボーイが、真っ赤に焼けたゴロタ石をやっとこで挟んで持って来ると、洗面器の水の中に...
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オルグ

文芸の夏ー2組合のオルグに参加するように言われたので夕方の仕事をさっさと済ませ、会場へ向かった。会場は高そうな寿司屋だった。泣きはらしたような顔をした若い店員に案内されて2階へ上がると、新入社員だった頃世話になった上司が「ヨッ、同志書記長!...
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兎が生き返った

文芸の夏ー1印刷工場の中で飼っている兎に餌をやろうとしたら、兎小屋の扉が開いていて中は蛻の空だった。探していると件の兎は輪転機の下で倒れていて、「おいッしっかりしろ!」「小隊長殿、無念であります。じ、自分の分までどうか、どうか…」「おい! ...