文芸の夏

文芸の夏

八幡宮前

文芸の夏ー20落ち葉の降りしきる八幡様の電停で市電を待っていると、電車ではなく少女がやって来た。恐る恐る少女の背におぶさった私は、彼女の事が心配で心配でならなかった。「大丈夫か、重くは無いか」「大丈夫、平気だよ、お父さん」産まれなかった娘の...
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道連れ

文芸の夏ー19淡い冬日に照らし出された河原の土手道を歩いていると、何時の間にか私と同世代の男と道連れになった。彼は実に良く喋り、そして言葉の合間合間に「サッカー、サッカー」と挟んで来た。サッカー選手なのかなと思っていると、「これから取材に行...
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通り過ぎるものたち

文芸の夏ー18狭い歩道の向こうから、保母さんに先導された子供達が、まるで「道路に豆を撒いた」かのようにやって来た。先頭の若い保母さんは時折後ろを向き、黄色い声を張り上げて子供等を叱ったりなだめたりしている。どうもすれ違うのが大変そうなので、...
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双子の僧

文芸の夏ー17吹雪の斜面を悪者から逃れた二人の僧が登って来る。その僧は双子であった。一人はかなり弱っていて、大木の陰で遂に動かなくなった。「これ真行坊、しっかりせい。もう少しで峰を越えるぞ」「勧行坊よ、私はもうゆかぬ」「何を申す真行坊!」「...
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狐狗狸さん

文芸の夏ー16真新しいオフィスビルの中。ミーティングが始まると言うのに会議室の場所が判らずオロオロしていると、廊下に面した交番が目に入った。警官にそう訊いて見ると、「この廊下の突き当りが電車通りだから、電車で3ツ目の停留所で降りてね。醸造所...
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限界斜面

文芸の夏ー15恐ろしい断崖を辛うじて走っている林道。道の上部で大崩落が起きたらしく、道は途中で完全に土砂に埋まっていた。いや埋まっている等と言う生易しいものでは無く、傾斜30度位の平滑な砂利の斜面と化していて、斜面はそのまま谷底まで続いてい...
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激情と亡失

文芸の夏ー14時雨の墓地の石畳、南天樹の下で和田先輩がうつ伏せに倒れていたので、見苦しくないように手近にあった縄でスカートの裾を縛る。そして枕を頭にあてがうと、私は一仕事した気分になってその場を立ち去る。秋晴れの空。見覚えの無い農家の庭で、...
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芸妓遭難

文芸の夏ー13山間の温泉街だった。渓流に掛かる赤い太鼓橋のたもとで、頬被りをし懐に匕首を呑んだ男が、先ほどから橋の向こうを覗っていた。どうやらあれが簪強盗だと判ってはいたが、黙って様子を見る事にした。やがて橋の向こうから芸者が一人歩いて来た...
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極北の不良

文芸の夏ー12「ミカミ君」と言えば我が中学校始まって以来、と言うより町の開闢以来最悪の不良であると言う事を先輩達から縷々聞かされて来た為、一年坊の私は大変に怖れていた。ミカミ君の「ミ」の字を思い浮かべるだけで心臓の辺りが痛くなる程、彼の存在...
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巨大病院

文芸の夏ー11それは例えようも無く大きな病院だった。上から見るとU字型をしているメインビルディングは端から端まで1㌔は裕にあり、そこで一体何千人の職員が働いているのか数える気にもならなかった。その大きな病院で「メッセンジャーボーイ」として働...