キレットに消えた線路ーその1

贋誌百珍

この話は、外国にある謎の廃線跡を踏査した態で進めた事案です。独りで行ってああ、こうだったなと述べるよりも、他人に説明させた方が判り良いだろうってんで、同行した二人の現地山岳ガイドの口を借りています。山岳ガイドの兄弟のキャラを立たせてからはスラスラと進みました。旧画像は2023年5月に clipdrop で作成したもので、本文も同時。今回は画像を Whisk で再描画させています。以下本文。

国内線のローカル便を乗り継いで最寄りの町に到着したのは夜だった。エアポートホテルに投宿し早朝の列車で目的地に近い国鉄の終着駅を目指す事にする。ターミナルビルの正面に簡単な駅があって、ホテルはその無人駅に隣接していた。出立前に撮った無人の空港ビル。

急行で1時間も走ると終点だった。駅でタクシーを拾い、今回依頼した山岳ガイドと合流する予定の「森林公園」に向かう。10分程で到着。空港駅、PUEBA級気動車3両編成の「エクスプレシ」。

森林公園はこの地域の観光の目玉として再整備が始まっていて、公園内には地元の産業を支えた森林鉄道の線路が再度敷設されている。

このように当時使われた機関車やログカーが展示されており、それらは良く整備されていてすぐにも走れそうな様子だった。

森林公園は元々大規模な製材所があった所で、国鉄の引き込み線も入り込んで来ていた。整備事業が完了すると、先ほどの終着駅から森林公園まで国鉄の列車が入って来ると聞くが、何時の事やら、とはタクシーの運転手の弁。

「日本からおいでの方ですね。私は今回案内を勤める山岳ガイド、イムライヤー・ニックマーンです」

「…わた」

「隣は私の兄でヴォイリ・ニックマーンと言います」

「…こん」

「今回この二人で案内を致します、どうぞ…」

「俺にも喋らせろ!」

二人ともこのジャコマート山地で生まれ育ち、伐採や採鉱で生計を立てて来たが、趣味の登山を活かして山岳ガイドとして登録しているベテランだ。廃線跡探訪でありながら山岳ガイドの手を借りなければならない程、凄まじい山奥まで分け入らなければならないのだ。

と言うのは、森林公園から中腹の伐採地まで伸びているのは確かに森林鉄道なのだが、終点土場から更に奥地へ伸びる線路が存在していた。何か鉱物を運搬していたが、それがとてつもない路線だと言う噂を聞いたのが今回の探訪の発端だったのである。

ジャコマート山を線路跡から遠望。線路は樹林帯を抜け、遥かな尾根をV字に引き裂くキレットの直下まで伸びているのである。それがどこでどう終わっているのかを見に行くのが今回の目的だ。

「珍しいですか? これは軍のトラックを改造した巡察車ですよ」

「山でびょ…」

「山で病人が出た時にも活躍してました」

「わ…」

「そうそう、兄貴が盲腸やった時もコイツで山を降り…」

「俺にも喋らせろ!」

森林公園を出発する前に装備装具の点検。その間に撮った保存車だが、「外国製」と言う以外素性は判らなかった。いよいよ出発する。

先ず起点から7km程にある「中間貯木場」を目指し、そこから「本線」を6km辿った森林鉄道としての終点までが今日の行程だった。この辺りはまだ地形は穏やかで線路も歩きやすかった。

ジャコマート山は裾野が広く、中央部だけが屹立した岩山と言う特徴があり、アルピニストに人気の山となっている。海外の登山サイトへの投稿で「チャイロ山東壁に線路の残骸が引っ掛かっている」と言う情報があった。それは果てしなく好奇心をそそる記事だった。そして今キレットへの道を歩いている。

黙々と歩く。その内に勾配が急になって来て、地形もこれまでのような丘陵地から山岳地に踏み込んだ事を伺わせるようになる。渓谷を渡る鉄橋。

別の木橋。


「この橋は所々壊れているんで一旦谷に降ります。渡れる場所はあります、な兄貴」


「…だいじ」


「大丈夫ですよ、この辺はあたしらの庭みたいなモンですから、な兄貴」


「…足も」


「さ、降りますよ、足元に気を…」


「俺にも喋らせろ!」

中間地点である一大ジャンクションに辿り着いた。ここで二人が用意してくれた「フナサン」と言うスパイスの効いたサンドイッチで昼食にする。

食べながら、この鉄道が現役だった頃の話を聞く。


「ここから大きな支線だけで4本分かれていて、な兄貴」


「…5」


「5本分かれていて、最盛期には構内信号手は飯食う暇もなかったんですよ。な兄貴」


「…おっ」


「食べ終わったらポンコツ機関車でも見に行きましょうか」


「俺にも喋らせろ!」

「そうこれこれ。俺たちはこの辺の出身で、な兄貴」


「…そう」


「この巡察車に乗って町の学校へ通ったんですよ、な兄貴」


「はい…」


「で、こん中で漏らしてな、兄貴」


「やかましいわい!」


ヤード跡の外れに鎮座していたケッタイな機関車。

この中間貯木場の名前を聞いたが、とても記述できない放送禁止用語ど真ん中の地名だったので、ここではその名を明らかにしない。

以下続


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