文芸の夏ー22

どうやら黙示録が説く所の「終末」が始まっているようだった。
町は焼け崩れ、恐怖に駆られた人々は厄災を避けようと他の人を押しのけ、やがて自らも業火に巻かれ、立ったまま全身から火を噴いて絶命する。
するとその時、地上の惨劇とは全く不釣合いな音色が空から響いて来た。見るとそれは尾崎豆腐屋の親父さんで、何時ものように自転車にリヤカーを繋いで、例の豆腐屋のラッパを吹きながら、火に炙られて柿色に染まった空へ駆け上って行こうとする。
”見よ、その方が雲に乗って来られる。すべての人が彼を仰ぎ見る、ことに彼を突き刺した者どもは。地上の諸民族は皆、彼のために嘆き悲しむ”
そうか、黙示録に言う、裁きの時至れば大天使来たって終末の始まりを告げるラッパを吹き鳴らす、その大天使とは尾崎豆腐屋の親父さんだったのか。
ちょっと豆腐屋と目が合った。彼は何時ものように愛想良く、
「ご主人すいません、今日は油揚げが終わっちゃいましてね」
「そうですか残念だな、じゃ『明日』にでも持って来てくれます?」
「ヘイ、毎度どうも」
何だか私は助かったのか助からなかったのか良く判からないまま世界は終わった。

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