極北の不良

文芸の夏ー12

「ミカミ君」と言えば我が中学校始まって以来、と言うより町の開闢以来最悪の不良であると言う事を先輩達から縷々聞かされて来た為、一年坊の私は大変に怖れていた。ミカミ君の「ミ」の字を思い浮かべるだけで心臓の辺りが痛くなる程、彼の存在を怖れていたのである。

私と級友の小松が、校庭から一段上がった所にある体育倉庫の前に座って何か喋っている時、そのミカミ君を発見した。ミカミ君は腕を組んだまま、校庭を正方形に歩いていた。

1人の3年生が近付いてきて、

「お前らよぉ、ミカミを不良だと思ってんの、どうなの」

と聞いて来た。どう答えても怒られそうな気がして困っていると、

「ミカミはさぁ、不良なんかじゃねぇんだよ。あいつはよぉ、悪霊なんだよ」

なるほどなぁ、と思った。言われてみれば正方形に歩いているミカミ君の足は全く動いていないように見える。

急にミカミ君が私達の方へ「ぬー」っと近付いて来て、

「おい、オメェら、金ある?」

取敢えず、ありませんと答えると、

「教えてやる、そう言うのを貧乏人って言うんだぞ、覚えとけよ」

そう言うとミカミ君は校庭に戻り、大声で校歌を歌いながら、また正方形に歩き出した。


「なぁ、あれもさ、一種の営業活動なのかな?」

「同僚」の小松がそう聞いて来た。

「さぁー…バブル入社組だからなぁあいつ、一種のパフォーマンスってヤツじゃない?」

何時の間にか私と小松はスーツを着てネクタイを締め、それなりに頭を撫でつけ小奇麗な格好をして「未だに正方形に歩いているボンタン穿いたミカミ君」を見下ろしていた。

ミカミ君だけはあの頃のままで、しかし置いて行かれている事を苦にする様子も無く校歌を歌いながら正方形に歩いている、それが私にはとても羨ましく感じ、何時か目頭が熱くなっていた。

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